食品マトリックスとは、栄養成分がどのような「形」「構造」「粒の大きさ」「水分」「繊維」「細胞壁」の中にあるかを見る考え方です。同じアーモンドでも、丸ごと、ロースト、刻む、バターにするでは、体が取り出せるエネルギーが変わることがあります。
この文章で覚えてほしいのは、カロリーや栄養素は食品の中にそのまま裸で入っているわけではない、ということです。
脂質、糖質、たんぱく質は、細胞壁、繊維、水分、粒の大きさ、食感の中にあります。
丸ごとのアーモンド、刻んだアーモンド、アーモンドバターは同じ「アーモンド」でも同じではありません。
数字を見るだけでなく、「どんな形で食べるか」を見ることが大事です。
古い見方:食品は、栄養成分の足し算だった
食品表示を見ると、私たちは安心します。カロリー、脂質、たんぱく質、糖質、食物繊維。数字が並ぶと、食品のことを理解したように感じます。
でも、栄養成分はただ食品の中に“置かれている”わけではありません。細胞の中に包まれていたり、繊維に囲まれていたり、液体になっていたり、粉末になっていたりします。体はその構造をほどきながら、栄養を取り出しています。
食品マトリックスとは何か
食品マトリックスは、食べものを建物のように見る考え方です。栄養素は部屋の中にあり、壁、廊下、扉、鍵のような構造に囲まれています。消化は、その建物に入り、扉を開け、必要なものを取り出していく作業に近い。
つまり、同じ脂質でも、油として取り出された脂質と、ナッツの細胞壁の中にある脂質では、体への届き方が同じとは限りません。
研究で何がわかったのか:アーモンドのカロリーは予想より少なかった
研究者は何を確かめたかったのか
2012年のNovotnyらの研究では、アーモンドのエネルギーが、従来のAtwater係数で計算される値と実際に体が利用できる値で違うのかを調べました。
この研究の面白さは、「アーモンドは健康に良い」という話ではありません。もっと根本的です。食品の中にあるエネルギーと、体が実際に取り出せるエネルギーは、必ずしも同じではないということです。
次の研究:丸ごと、刻む、バターにするで変わった
2016年の研究は、さらに一歩進みました
Gebauerらは、アーモンドの加工の違いが代謝可能エネルギーに影響するかを調べました。
数字で見ると、丸ごと自然アーモンドは4.42kcal/g、丸ごとローストは4.86kcal/g、刻みローストは5.04kcal/gでした。一方、アーモンドバターは6.53kcal/gで、予測値に近い結果でした。
研究者たちは、この違いを食品構造で説明しています。丸ごとのアーモンドでは、脂質が細胞壁の中に残り、すべてが消化で取り出されるわけではありません。バターのようにすりつぶされると、細胞壁が大きく壊れ、脂質にアクセスしやすくなります。
アーモンドの脂質は、床に置かれた油ではなく、小さな部屋の中にしまわれた油のようなものです。丸ごとのアーモンドでは、すべての部屋の扉が開くわけではありません。刻むと扉が増え、バターにすると壁ごと壊れて、中身に手が届きやすくなります。食品マトリックスとは、この“部屋の構造”を見る考え方です。
これは「カロリーを信じるな」という話ではない
ここで誤解してはいけないのは、食品表示が無意味ということではありません。カロリー表示は、食品を比べるための大切な目安です。ただし、それは体の中で起きることを完全に写したものではありません。
特に、ナッツ、豆、全粒穀物、果物、野菜のように構造を持つ食品では、噛み方、粒の大きさ、加工の程度、細胞壁の壊れ方が、体への届き方に関わることがあります。
日本の食卓で考えるなら
日本の食事は、食品マトリックスを自然に活かしてきました。ごはん、納豆、豆腐、海苔、味噌汁、野菜の煮物、焼き魚。これらは、栄養成分だけでなく、粒、繊維、水分、香り、温度、噛む動作で食事を作ります。
一方で、現代の食事では、液体、粉末、バー、ペースト、飲む食事が増えています。便利さは大切です。でも、食べものの形が消えすぎると、食事は「栄養補給」に近づき、噛む時間や満足感が弱くなります。
ミスリードしやすい考え
見方:食品の形や加工度によって、体が取り出せるエネルギーが変わることがあります。
見方:便利で役立つ場面もあります。ただし、丸ごとの食品とは構造が違います。
見方:成分表は大切ですが、食べものの構造、食べ方、食卓での役割も見る必要があります。
成分表を見たあとに、もう一つだけ見る。これは丸ごとの形に近いか、それとも細かく壊されているか?
今日からできること
- ジュースより、丸ごとの果物を選ぶ日を増やす。
- ナッツは、バターやペーストだけでなく、丸ごと食べる日も作る。
- 粉末やバーに頼る日は、豆、卵、魚、豆腐など“形のあるたんぱく質”も意識する。
- やわらかい食品だけの日は、野菜、海藻、豆、ナッツなど噛む食材を足す。
- 「何が入っているか」と同時に、「どんな形で食べるか」を見る。
食品マトリックスの考え方は、個別の病気の診断や治療をするものではありません。糖尿病、腎疾患、消化器疾患、摂食障害、アレルギーなどがある場合は、医師・管理栄養士などの専門家に相談してください。ナッツはアレルギーにも注意が必要です。
参照した主な資料
- Novotny JA et al. Discrepancy between the Atwater factor predicted and empirically measured energy values of almonds in human diets.
- Gebauer SK et al. Food processing and structure impact the metabolizable energy of almonds.
- Aguilera JM. The food matrix: implications in processing, nutrition and health.
- Jacobs DR & Tapsell LC. Food synergy: an operational concept for understanding nutrition.
英語で内容を確認する / English reading version
This article explains the food matrix using almond studies. A 2012 study found that almonds provided about 129 kcal per 28 g serving, lower than the 168–170 kcal predicted by Atwater factors. A 2016 crossover study compared whole natural almonds, roasted almonds, chopped almonds, almond butter, and control. Whole and chopped almonds had lower measured metabolizable energy than predicted, while almond butter was close to predicted. The analogy is a locked room: nutrients are not always lying on the floor; they may be inside food structures that digestion must open.


